新建築住宅特集2022年1月号の特集【最新住宅プロジェクト13題】に、「飯能の小屋」が掲載されています。▶
都市・小屋・森
「飯能の小屋」と題した建築ではあるが、いわゆる山荘や山小屋の類いではない。日常的に使われる住宅であり、最寄駅から歩ける距離に建つが、その立地には特筆すべき点がある。敷地境界線に沿って外階段を上り、玄関、廊下を経て入る主室から外を見やれば、一般的な都市居住では考えられない風景が広がる。この野趣溢れる植生は、一義的には山を切り崩してつくられたゴルフ場の周縁を為すものだが、秩父/奥多摩へと至る自然の森であり、実際に猪や鹿も出没する。つまりこの場所は、スプロール化した都市の最果てであると同時に、開発を免れた自然の末端でもあるのだ。ここから先は森、背後には少し離れて都市が控えている。
設計の最初のヒントになったのは周囲の家々が悩まされている落葉への対策で、この住宅を勾配屋根にすること、すぐに詰まってしまうであろう横樋をなくすという方針は早々に立てられた。勾配屋根では切妻が簡易で納まりも良いが、単純な家型はどことなく山小屋を連想する佇まいにもなるだろう。半地下に水回りを納めるコンクリート造との混構造も考えたが、最終的には水回りと玄関を1階に持ち上げる総木造の計画となった。メインの切妻のボリュームに対して寄棟のボリュームをぶつけることは、屋根の形式を一般的な呼び名のないものにしたかったからでもある。結局この住宅では、「都市型の住宅でも山小屋でもあるようでいて、そのどちらでもない」という矛盾を受け入れた多義性が肝要なのだと理解した後に、内部のありようも次第に決まっていくこととなった。合理とも非合理とも捉えうる構造形式や、平行六面体の抽象空間と勾配屋根が要請する小屋裏空間をどのように調停させていくか。各所の部材の取扱いを、見る者の意識や見立てに応じて意味が揺らぐように設えていくことで、一義的な意味の定着から逃れ得る、この場所に相応しい住宅になるのではないかと考えた。